アジアにおけるベンチャー企業 - 地域的立地条件と国際ネットワークの重要性

インターネット・エコノミーの台頭と、情報技術やバイオテック、ニューマテリアル分野の進歩により、新たなビジネスチャンスのポテンシャルが大いに高まったが、そこで重要な役割を果たすのが、研究活動と密接するハイテク分野のスタートアップである。企業規模が小さく小回りが利くので、幅広い分野において様々なベンチャー活動が可能だ。また、高度な技術とデジタル技術を特徴とする製品やサービスは、大きな成長ポテンシャルが見込める。成功すればすぐにグローバルレベルまでスケーリングが可能なため、投資家は大きなリターンを期待できる上、ハイレベルで高所得の雇用が生まれる。このようにスタートアップはイノベーションや成長戦略において重要であるため、経済学の研究対象であると同時に、国や自治体レベルの経済政策の対象でもある。
スタートアップの成功要因として重要視されるのは、高度なテクノロジーの活用・アクセス可能性、企業の成長段階に応じた資金ニーズと、IPOという出口オプションを提供する金融インフラ、専門能力を持つ高度な人材の確保、オープンな市場、スタートアップのリスクプロファイルを考慮した規制や税制、起業家精神を促進支援する社会の価値観などである。しかし、地理的要因の重要性はあまり知られていない。地理的要因に関する文献を見ると、「地域のクラスター」と「国際ネットワーク」という、一見相反する2つの主張が主流となっている。
本研究では、地理的要因、すなわち地域の立地条件と国際ネットワークの重要性を考察する。実際のデータは、アジア最大の人口集中地域である東京、ソウル、北京、蘇州市、重慶市を中心に採集する。以下のポイントが研究の中核となる：

• 地域的立地条件と国際ネットワークは、スタートアップの成功にどれだけ影響を与えるのか。
• 地域的立地条件と国際ネットワークの相互関係 − 補完か、代替か。
• 調査対象都市における、地域的立地条件と国際ネットワークの重要度の相違。

上記5都市の比較から、規制や地域の経済環境、社会・文化的要因が地域的立地条件と国際ネットワークの重要度に与える影響を分析し、ひいては、中国、日本、韓国という国レベルの比較を行うことで、起業家フレンドリーでないとしてこれまであまり研究対象として注目を浴びなかった日本と韓国にも焦点を当てる。本プロジェクトでは、これまで着目されなかった研究分野に挑み、ハイテク分野のスタートアップを呼び込むための立地として、各国がどう評価されているかを刷新する可能性を含んでいる。