生命倫理の諸問題における幸福・不幸 ―臓器提供と臓器移植、生殖医療をめぐってー
2014年2月年 - 0001年11月
幸福、主観的幸福度の研究において、健康、そして文化の差は重要なキーワードとなっている。それはまた(生命)倫理学の議論の主要テーマでもある。
近年の主観的幸福度を扱う研究は社会科学的方法による計量化・可視化による功績が大きく、その結果が哲学・倫理学の議論に影響を与えてもきた。しかし同時にその限界もしばしば指摘され、ことにそうした統計に現れた「文化の差」(または現れなかった「文化の差」)に関しては様々な議論がなされている。
このプロジェクトでは、人々の幸福(満たされた人生)・不幸に関するとらえ方が顕著に現れる医療現場の問題をめぐる日独生命倫理の問題や議論の内容を比較検討しながら、幸福に関する量的研究の限界に倫理学の議論がどのような貢献をしうるのか考察する。
生死をめぐる人間の考え方や医療の現場での決断・行動に国や地域で「差異」が認められる場合、社会的枠組み(法律、保険制度や経済的条件など)の影響も大きく、宗教、価値観などいわゆる「文化」の差が反映されたものである、とその「差異」だけをもって判断をすることは避けなければならない。一方で国際化する社会で、一つの国や地域の医療の中でも患者の「文化的差異」が問題になる場面も日常的になりつつある。多様性への配慮を欠かさずにかつ、抑圧やそれぞれの人間の侵害を防ぐための普遍的な倫理的規範はありうるのだろうか?
上述のように、幸福研究に倫理学的議論がどう貢献できるのかを考えると同時に、本プロジェクトは、現代における幸福研究を視野に入れ、主観的幸福感、充足感を焦点にした生命倫理・医療倫理議論の文化比較的検討が、(生命)倫理学の大きなテーマでもある相対主義・普遍主義議論や近年ドイツの倫理学に見られる規範倫理一辺倒でなく幸福を再びテーマにしようという潮流への貢献もめざす。
具体的には、まず第一に臓器移植・臓器提供をめぐる日独の臓器移植法改正後
(日本 2009年、ドイツ2012年)の動向とそれをめぐる政治的・哲学的議論に現れる満たされた人生、その終わりのあるべき姿に関する理解を比較検討する。日本で現在政治的にも盛んな尊厳死法についての日独の議論も視野に入れる。
臓器移植・提供という状況だけでなく、また生命の終わり、死と幸福・不幸との関わりに関する考察のテーマとしての比較対象として、次のステップでは 命の始まり、不妊治療・生殖医療をめぐる動向・人々の行動と近年の議論について考察する。
理論的研究を補う意味で、患者・医療関係者の体験談・手記の幸福感をキーワードとした内容分析、そして関係者・ネットワーク従事者へのインタビューを両国で行っていく。