東アジアにおける文化的自己主張
2000年11月年 - 2002年12月
プロジェクト『東アジアにおける文化的自己主張』は、東アジアに於けるアイデンティティの追求を主題とし、「西欧」に対するアジア諸国の共通認識ならびに同じアジアの中でも地域的に異なる帰属意識を多角的に研究するものである。文化的自己主張には様々な形態があり、このプロジェクトでは学問分野と文化圏を超越した視点から、自己オリエント化、知的所産による東洋と西洋の分類に基づく自己と他者との区別、そしてオピニオン・リーダーとしての知識階級の役割など、多岐にわたるテーマと取り組んでいる。
自己主張という概念はドイツ語では「Selbstverteidigung (自己防衛)」、「Durchsetzungskraft(意思を貫く力)」、「Selbstvertrauen (自信)」等の概念と同義(類義)語として使われることもある。言葉にはインターテクスチュアルならびにコンテクスチュアルな性質があるために、中国語の「ziwo zhuzhang(自我主張)」、英語の「self-assertion」、日本語の「自己主張」そして韓国語の「tschagi tschudchang」 又は「jaki chu jang」など、的確な訳語を見つけるのは必ずしも容易ではない。ドイツ語の「Selbstbehauptung(自己主張)」という概念の特に重要なコロケーション(連語)として挙げられるのは「Nation (ネーション)」、「Staat (国家)」、「Gewalt (暴力・権力)」、「Abendland (西洋)」、「Eroberung (征服・獲得)」、「Anpassung (適応)」、「Unterwerfung (服従)」、「Neutralität (中立)」、「Ringen (戦い・努力)」、「Freiheit (自由)」、「Zwang (強制)」、「Weltordnung (世界秩序)」等である(http://www.wortschatz.uni-leipzig.de 参照)。つまり、この「Selbstbehauptung」という概念には、神ヤヌスの頭の様なコノテーション(含意)とコロケーション(連語)を包含しており、その概念は「Defensive/Offensive (防御/攻撃)」、「Reaktion/Aktion (行動/反動・反作用/作用)」等の対語に通じるところがある。
自己主張論は世界中で展開されているが、その性質が普遍的なことから常に暫定的な結論にしか達し得ない。それは日本の自己主張論或いはアジアの自己主張論についてだけではなく、例えば2000年に発表された元ドイツ連邦首相ヘルムート・シュミットの著書「ヨーロッパの自己主張、21世紀への展望」のように、ドイツやヨーロッパのものについても同じことが云えるのである。
自己主張論の多くは自国の立場から論じられているものであるため、程度の差があるが、概して遠からず愛国主義と国粋主義の中間に位置づけられるような、ナショナリステックな展開に至る傾向がある。
「アジアの自己主張」というテーマで、ドイツ、日本、韓国、中国の研究者が集まり、これまで二度シンポジウムを開催してきた。第一回目は東京のドイツ‐日本研究所(2000年11月30日~12月2日)、第二回目は韓国のソウル(2001年11月14日~11月17日)で行われた。第三回シンポジウムは2002年12月にドイツで開催される予定である。「Selbstbehauptungsdiskurse in Asien: Japan-China- Korea (アジアにおける自己主張論: 日本・中国・韓国)」と題した第一回及び第二回シンポジウムの論文集は2003年にミュンヘンのIudicium Verlagから出版される予定である。
イベント
シンポジウム・会議
The Omnipresence of Discourses of Self-Assertion in East Asia: Chinese, Japanese, and Korean Perspectives