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日本における仕事と職場の多様化:誰にとっての新たなリスクとチャンスなのか?
Research focus 2015年10月年 - 2020年6月
本プロジェクトは、DIJの研究活動「不確実な将来に内在するリスクとチャンスにどう対処するか(日本のリスクとチャンス-不確実性さが増す将来に向けての課題)」の一環です。現代の日本にとって多様性(ダイバーシティー)ならびに多様化プロセスがどのような意味を持つかのという点に焦点を当てるべく、本プロジェクトでは、雇用と職場で進展しつつある多様性が個人および社会全体に及ぼす多面的な影響を分析しています。複雑な問題ゆえに、政治学、心理学、メディア研究、文学を網羅する学際的な視点から取り組んでいます。
日本は、雇用構造と男女の役割(ジェンダーロール)に関しては特に保守的であると指摘されます。他の多くの国々でも同じような多様化プロセスが進展しているのですが、そのディスラプション(変革のための破壊)が、日本ほど広範囲に及ぶ国は多分他にはないでしょう。日本では、男性が一家の大黒柱というモデルが社会、政治、ビジネスの現場、文化表象に深く浸透しているからです。しかし近年、女性の労働市場への参加が伸び、外国人労働者が増え、また、仕事に対する認識が変わってきたこと等によって、日本における仕事と雇用の意味は変わってきました。特に急激な少子高齢化によって、近い将来その意味はさらに大きく変わることになるでしょう。本研究プロジェクトは、この多様化プロセスと、その帰結を明らかにしようとするものです。
「ダイバーシティー」という言葉は近年、日本を含めた先進国の間で流行っています。この言葉は、現代社会の様々な構造転換プロセスの名目上および実際の共通点を包含するものとして広く使われています。それ故、組織のリーダーシップ、政府機関、市民社会機構など多岐にわたる論議においてよく登場します。同時に、多様性は、性別、年齢、性的指向、健康、あるいは精神的・肉体的能力などによって生じる個人、社会グループ間の差異および差別化を分析するための研究コンセプトでもあります。こう考えると、多様性は社会生活のすべての範囲に適用できることが分かります。
多様性と多様化は、論議に参加する利害関係者(ステークホルダー)それぞれの見方によって、チャンスにもリスクにもなり得ます。多様性をうまく管理すれば、より高い動機付け、より高度なパフォーマンス、より大きなイノベーションポテンシャル、ひいては個人と組織のより高い満足度を引き出す手段となり得るとよく言われます。しかし、多様性は異質性の高まりを内包している可能性があるので、社会的不平等や軋轢を引き起こしたり深刻化させる場合があるという、より批判的な解釈もあります。このように評価に違いはあっても、日本においても、その他の国においても、多様性が仕事と雇用関係に少なからぬ変化をもたらすことはほぼ必至であろうという認識は共通しています。しかし、この変化のプロセス、そして、それが高度に発展した社会に与える影響について、私達はまだ限定的にしか理解していません。
本プロジェクトでは、仕事に関連する多様性が、広く一般の論議において、また、政治的論議においてどのように反映されているか、この多様性が制度的枠組みと業務組織にどのような影響を与えているか、そして、多様性に付随する変化に個々のプレーヤーとそのグループがいかに対処しているのかを調べています。ここから、多様化プロセスに影響を与えている要因、および、このプロセスから生じるチャンスとリスクを識別することを目的としています。学際的な視点から取り組むことによって、仕事に関連する多様性を様々な側面から研究しやすくなり、さらに、異なったアプローチによる研究結果をまとめることによって、現代の日本にとって当該多様性がどのような意味を持っているのか、よりよく理解することができます。ひいては、その知見を他の高度な先進工業国にまで広げていくことができます。