日本と中国。激動する環境下での戦略マネジメント
1969年12月年 - 2005年10月
中華人民共和国は国際的な自動車産業の市場として、またその生産地として、ますます重視されるようになってきている。また中国政府にとり、下請け産業を含む自動車産業は、国の経済と科学技術の発展を担う重要な産業部門の一つである。こうした国際的自動車産業の戦略マネジメントの観点から見て、中国市場への投資は現在のところグローバル化と国際競争激化のあおりをまともに受けているのである。国際化の戦略をさらに発展させ、企業を市場指向型に変革することこそ、中国市場における日本のマネジメントの優先課題であろう。DIJの重点研究テーマ「アジアの中の日本」の一環として、ルネ・ハークは中国自動車産業における日本のマネジメントの戦略と組織コンセプトに取り組んでいる。研究の成果の一部はすでに『Industrie-Management』誌(2000年6月号)、『Zeitschrift für Wirtschaftlichen Fabrikbetrieb』誌(2001年1/2月号)、『Japan Markt』誌(2001年4月号)で発表されている。このほかにはワーキング・ペーパー「中国自動車産業における市場リーダーシップ -激動する環境下での戦略マネジメント」(Working Paper 01/3 Philipp Franz von Siebold Stiftung - Deutsches Institut für Japanstudien. 東京、2001年所収、20頁)、および下記のハンス・ギュンター・ヒルペルトとルネ・ハークの共著を参照されたい。
Hanns Günther Hilpert; René Haak (eds) (2002): Japan and China: Cooperation, Competition and Conflict. Basingstoke, New York: Palgrave. 217 Pages (ISBN 0-333-97038-1).
本書は、中国と日本の経済関係を特に取り上げて幅広く扱ったものとしては最初のものである。ここでは、貿易、投資、ODA、マネジメント活動および戦略、といった日中両国の経済関係をめぐる主要なアスペクトが包括的な検討と分析の対象とされている。 本書は、アジアとヨーロッパの著名な研究者たちによる最新の研究成果を集成したものであり、日中関係のミクロ経済・マクロ経済の諸相を調査し、分析・評価をおこなったものである。研究者だけでなく、アジアでのビジネスの関係者すべてにとって有益な必携の書である。
要旨
1990年代を通じて、日本と中国の経済は異なった道筋をたどった。経済大国日本において1990年代は株式市場ならびに不動産市場の破綻につづく経済的停滞の10年間であり、この間に主たる競争相手であるアメリカ合衆国が高成長を見せ、生産性を急速に改善したのに対し、日本の産業は対抗できなかった。これに対し中国は年間平均10%前後の高度経済成長を維持し、中国企業が世界市場でのシェアを支配する産業部門はますます増えていった。これにより先進工業国との発展の格差はますます縮まり、中国は地域の政治・経済権力の中心としての位置を占めるに至った。こうした中国の隆盛は、国際的秩序全体にとっても、また東アジア地域にとっても、政治的経済的に大きな影響をもたらすことになる。国際ビジネスの分野においても、また国際経済においても、このことは広く認識されるようになってきているといえよう。
こうした共通の認識に立ってみるかぎり、どの主要先進工業国よりもまず日本が、中国の経済的政治的成功の所産に直面することになったことは驚くに値しない。現に中国産業は製品の販売価格を低く保ったまま、その品質を改善しつつあり、世界中の製品市場で主要な競争相手となってきている。日本の国内市場においても例外ではないし、日本の経済・政治エリートはこの点を大いに懸念している。マクロ経済のレベルでは、すでに中国は東アジア経済における生産と市場の中心という日本の地位を脅かしつつあるのである。中国の経済的政治的重要性が今後も増していくであろうことを考慮すれば、以下の問いは決定的に重要であると言えよう。日本と中国は今後どのような関係を構築していくのだろうか。両者は協調的な関係を築くことになるのか、それとも対立的な関係に入るのだろうか。
ドイツ日本研究所(DIJ)経済研究部は、近年の重要な研究プログラムのひとつとして、この日本と中国の経済関係の問題に、とくに海外貿易、戦略マネジメント、人材開発の領域に焦点を当てて取り組んできた。本書は、アジアとヨーロッパの著名な研究者たちによる最新の研究成果を集成したものであり、日中関係のミクロ経済・マクロ経済の諸相を調査・解析・評価したものである。これまでの日中関係の扱った文献の多くは、歴史的経緯や政治、安全保障に関心を集中させてきた。貿易、投資、経済協力、マネジメント活動と戦略などを包括的に検討する本書の登場は、こうしたこれまでの研究の間隙を埋めるものである。研究者だけでなく、アジアでのビジネスの関係者すべてにとって有益な必携の書であるといえよう。