Making History: The Quest for National Identity through History Education (歴史教科書問題とナショナル・アイデンティティ)
2001年9月21日
市町村の教育委員会はそれぞれ「採択地区」の「採択審議会」(教育委員会の下部機関)の指導・助言によって、8月15日までに今後4年間に利用したい教科書の決定を、文部科学省に報告しなければいけない。過去の「教科書論争」と言うのは、高等学校の歴史教科書を中心にした問題だったが、「新しい歴史教科書をつくる会」(「つくる会」)の「新しい歴史教科書」、「新しい公民教科書」(発行:産経新聞社・販売:扶桑社)の出現によって、中学校の歴史・公民教育が論争の焦点になりつつある。その「新しい」歴史教科書が狙っている「歴史修正」は国内だけではなく、韓国・中国などからも抗議の声があがり、日本の東アジアにおける評価や立場に多くの波紋をもたらしている。国内でも再三再四「歴史歪曲」と指摘されているこの教科書は、それほど新しい歴史(公民)教科書としての価値があるのだろうか?「新しい歴史(公民)教科書」がどれだけ採択されるかは、まだ明白になっていないが、日本政府にとって、この教科書を検定に合格させることに、近隣諸国との関係を危うくするほどの得があるだろうか。
「自分の国に誇りをもたせる教育」ということが、「つくる会」の諸教科書作成の目的である。現在の歴史教科書が「バランスを欠いている」上、従軍慰安婦、南京大虐殺、731部隊などの記述のせいで「愛国心」を抱かせることが出来ないと「つくる会」は主張している。外圧によって形成された「自虐史観」、「東京裁判史観」などを教科書から排除し、それによって日本の教育問題・社会問題を解決するのが、「つくる会」の目的である。果たして従軍慰安婦などの記述のない歴史教科書、すなわち「感じの良い歴史教科書」がナショナル・アイデンティティの形成に貢献できるのだろうか。そういう「つくる会」の諸目的は歴史そのものと、歴史観の創造、歴史叙述などについての議論に必ずつながると思われる。果たして、すべての歴史は「神話である」のか、ただの「物語」に過ぎないのか、また視点によって変化するものなのだろうか。歴史というものを私物化し、「教育目的」に利用してよいのだろうか。
このワークショップではこのような複雑な問題を取り上げ、議論していきたい。その際、特に中学校教科書の採択問題を背景にし、「新しい」教科書の内容をも紹介しながらイデオロギー的、教育的、そして法律的な影響を検討してみたい。歴史、教育、政治等の専門家の発表も交え、最近の論争の政治的な背景と日本の国際関係への影響を分析し、学校教育上のナショナル・アイデンティティ形成のための歴史利用の(無)意味を議論しようと思う。
発表
13:00-13:30
Welcome Note (Irmela Hijiya-Kirschnereit, DIJ)
ニコラ・リスクティン
スヴェン・サーラ
13:30-14:30
Panel 1: History Education and Nationalism
Nakamura Masanori, Prof. Kanagawa University, History
Iwasaki Minoru, Tōkyō University of Foreign Languages, Philosophy
14:30-15:15
Discussion
15:30-15:45
Panel 2: History Textbooks and International Relations
Kang Sangjung, Tōkyō University, Political Science
イサ・ドッカ