歴史の政治学 - フェミニスト研究者が戦争戦後を考え直す
2000年4月13日 - 2000年4月14日
女性史という分野は、長年の間に、歴史学の中でさまざまな研究を生み出し、確固たる地位を築いてきました。女性の歴史的経験に関する資料は今や膨大な量となり、これらの資料は「女性が歴史の立て役者である」ということを語る豊かな証拠を私たちにもたらしました。しかしながら、こうした過程において、ある課題が浮かび上がってきました。つまり、女性が歴史を語る主体となり、また女性史が歴史学の単なる「付録」としての地位から脱却しようとした時、研究のための理論、そして、そこから起こる問題の究明が必要であるということです。フェミニストによる歴史の再構築の試みは、歴史という学問分野そのものに変更や修正をもたらす可能性を秘めており、歴史を書き直す際、いかにして女性に関する新しい知識や情報を活用しうるかということは重要な問題となりました。
1990年代前期、戦時中の日本政府および軍隊による慰安婦の組織化が国内外で大きな注目を浴びました。この時期、日本ではフェミニストによる歴史の書き直しの作業に弾みがついたのです。以来、「慰安婦」問題は、日本のフェミニストたちによる研究の中枢の課題になってきました。また、「慰安婦」問題は、フェミニストや革新的な研究者を一方に、そして保守派や修正主義者を他方に、「戦争戦後責任」に関する白熱した論議を引き起こしました。そして、フェミニストたちの間に、「慰安婦」問題に付随する議論も起こりました。つまり、女性の戦争への関与、協力という問題に、いかなる方法でまた政治的なスタンスで取り組むかということです。こうした議論は、フェミニズム理論における思想や方法の差異も明らかにされました。また、ヨーロッパやアメリカの現代史の研究者たちも類似した問題に取り組んできており、その結果、ジェンダー、戦争そしてナショナリズムの関係が、共通の課題として、国内外でさかんに研究されるようになったのです。
このシンポジウムの課題は、第二次世界大戦中の女性、ジェンダー、ナショナリズム、戦争と暴力(性暴力)など複合的な関係をフェミニズムの観点から考え直すことにあります。会議には、日本、ドイツ、アメリカ、オーストラリアから著名な歴史学者、社会学者の参加を得て、日本とドイツの歴史における疑問点および戦争戦後責任などを中心に講演と討論を行います。
会議第一日目(4月13日)は、「歴史を研究する – 歴史を書く – 書き直す」ことに対するフェミニズムの理論と方法論に重点を置きます。分野の異なる研究者たちの発表を通して、フェミニズム歴史学の目標、展望、アプローチを紹介する一方、方法論的問題を様々な観点から、(反省的に)討論します。第二日目(4月14日)には、研究者たちの個々の研究プロジェクト並びにケース・スタディを紹介する予定です。「方法論・理論と実践」というレベルへ転じ、女性の当事者性/主体性/加害責任、また、歴史を語ること、語り手の位置などの課題に注目します。こうした多角的な考察を通して、第一日目のテーマを掘り下げ、より具体的、なおかつ、より詳細な議論を進めていきます。
発表
1日目 2000年4月13日 (木)
10:00
Opening Greetings
10:20
Introduction to the Symposium
10:40
Panel 1: Feminist Discourses on Gender, Nation, and War (セッション1:「ジェンダー、ネーション、戦争」に関するフェミニズム論)
イルゼ・レンツ(ボッフム大学、ドイツ)
Ueno, Chizuko (Univ. of Tōkyō) 上野 千鶴子(東京大学)
16:10 - 17:30
Panel 3: Gendered Violence (セッション3:性暴力問題)
Suzuki Yūko (The Academic Society for “Women, War, and Human Rights”) 鈴木 裕子(「女性・戦争・人権」学会)
Fujime, Yuki (Ōsaka University of Foreign Languages) 藤目 ゆき(大阪外国語大学)
17:30
Discussion and Final Discussion of Day 1
2日目 2000年4月14日 (金)
9:15
Panel 4: Mobilization and the Issue of Womens's Agency (セッション4:動員と女性のエージェンシー問題)
Claudia Koonz (Duke University) クローディア・クーンズ(デューク大学、USA)
Kanō, Mikiyo 加納 実紀代
Gudrun Schwarz (Hamburg Institute for Social Research) グードルン・シュワーツ(ハンブルク社会研究所、ドイツ)
14:00
Panel 5: History and Narrative: Exploring New Forms in Feminist Historical Studies (セッション5:歴史を語ること - フェミニスト研究者が求めている表現)
Gisela Notz (Friedrich Ebert Foundation) ギゼラ・ノツ(フリードリッヒ・エーベルト財団)
Kōra, Rumiko 高良 留美子
16:00
Panel 6: Herstory - Remembrance, Responsibility, and Reconciliation (セッション6:”Her-story” - 記憶、責任、和解)
Nakahara, Michiko (Waseda Univ.) 中原 道子(早稲田大学)
Matsui, Yayori (VAWW-NET Japan) 松井 やより(VAWW-NET Japan)
17:45
Closing Remarks (総括コメント)
1日目 2000年4月13日 (木)
14:00 - 15:50
Panel 2: Feminism, Nationalism, Post-Colonialism (セッション2:フェミニズム、ナショナリズム、ポストコロニアリズム)
Kim Puja (Ochanomizu Univ.) 金 富子(お茶の水女子大学)
Ōgoshi Aiko (Kinki University) 大越 愛子(近畿大学)